経済統計Tips−資本サービス導入へのカウントダウン−

June 28, 2005

資本サービス投入量というと、聞き慣れないかもしれません。生産要素として資本の投入量を考えたとき、(新古典派的生産関数では)資本投入量はサービス概念であることが望まれますが、その代理変数として資本ストックを利用する経済分析が現在でも多くあります。また、国民経済計算体系の国連勧告(SNA93)にも有形固定資産や無形固定資産のストックは登場しますが、資本サービスという概念は現在のところ登場していません。2008年にはSNA93の改訂(Revision-1)が予定されています。それに向けて、資本概念や測定に関する検討をしているキャンベラグループでは、資本のサービス概念の導入が議論されています。ここでは、資本のストックとサービス概念の違いがなぜ重要であり、どのような変更をもたらしうるのかを簡単な例示によって紹介します。

資本は多くの場合、自己所有され自己利用されています。その意味では、資本サービス量を直接に観察することは困難です。ストックとサービスを結ぶスタンダードな仮定は、両者の比例関係を想定することです。その仮定のもとでは、あるひとつの資産について、所有するストック量が2倍になったときには、生産において投入されるサービス量も2倍になったと考えます。さて、このような仮定のもとでは、なぜわざわざサービス量という概念を持ち出さなくてはいけないのか疑問をもたれるかもしれません。

例として、建設物とコンピュータという二つの資産のみを考えます。いま、前期末にそれぞれ100万円ずつの資産を保有していたとしましょう。(はなしの簡単化のため)単純に和集計すれば、200万円の資産を持っていることになります。いま建設物はそのままで、コンピュータのみ3倍に資産を増加させた(=そのように純投資をおこなった)とします。資産額はそれぞれ100万円と300万円、合計400万円となり資本ストック量は集計値で2倍となります。この例を前提に資本のサービス量を考えます。

資本サービス量はストック量との比例関係を仮定していますが、その係数は資産によって異なります。ともに100万円のストック量があったとしても、期中の生産に対する寄与分は資産によって相違があるからです。その係数は年次化要素(annualization factor)とも呼ばれます。建設物は耐用年数がとても長いので期中の生産活動に寄与する分はわずかに5%であり、逆にコンピュータはわずか数年で除却されるので25%とします。この例では、前期末には建設物5万円、コンピュータ25万円、(ここでも簡単化のため)単純に和集計すると30万円という資本のサービス量を投入していると解されます。さて、先のような資産の増加によっては、今期には建設物5万円、コンピュータ75万円の資本サービス投入量となります。和集計値では80万円です。よって集計資本サービス量ではおよそ2.7倍に増加したことになります。集計資本ストック量では2倍になっていますので、資本サービスの成長率は資本ストックの成長率を大きく上回ることになります。集計値として、単純に測った資本ストック量を生産関数における資本投入量とするのであれば、それは真の資本投入量を過小に評価し、生産性(全要素生産性)を過大に評価することになります。

実際の経済成長の経験から資本蓄積のパターンをみても、上記の簡単な例示と同様に、建設物から、自動車、各種機械、コンピュータなどへと資産構成は変化しています。ですので詳細な資産分類で実測しても、資本サービスの成長率は資本ストックのそれを上回る傾向にあります。資本サービス概念は生産分析において重要な意味を持ちます。 数年後には、資本ストック統計ではなく、資本サービス量としての公式統計がお目見えすることになるでしょう(そう、期待しています)。1) 先述のように、国民経済計算の生産勘定においても、現在の固定資本減耗のみではなく、資本のサービス費用を記述しようという動きが検討されています。実際の測定上は、そのために乗り越えるべきいろいろな課題がありますが、その日は遅かれ早かれ来るのでしょう。そのカウントダウンが聞こえて来るような気がします。

1) 資本ストック、資本サービスなどの概念的な整理や日本での測定は拙著『資本の測定−日本経済の資本深化と生産性−』、日本の公式な資本の統計に関する問題や拡張の方向としての提案はNomura, Koji: Toward Reframing Capital Measurement in Japanese National Accounts, KEO Discussion Paper, No.97, 2005にあります。

野村浩二(慶應義塾大学産業研究所)



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