経済統計Tips−社会資本の費用負担−

November 17, 2004
(データ更新とカバレッジ変更による計数変更)January 25, 2005

93SNAによって道路、ダム等、一般政府が所有する社会資本に係る固定資本減耗の計上が勧告されています。日本の国民経済計算(SNA)では内閣府によって1995年産業連関表(基本表)に先立って推計され、また2000年産業連関表ではそれを含むように推計されました。公務部門の固定資本減耗に加算され、それは直接に公務部門の国内生産額を増加させ、その増加分は政府最終消費支出に計上されることで国内総生産(GDP)が増加します。「新しい国民経済計算」(93SNA)によると、1998-99年ではその固定資本減耗は8兆円強ということで、GDP水準を1.6%ほど押し上げます。この8兆円という数字は、無形固定資産としてより大きな注目を集めた受注ソフトウェアの6兆円強を上回る規模ですので、そうとうに大きいインパクトであると言えるでしょう。1) 現在のところ、日本のSNAでは1980年まで遡及推計がおこなわれています。ここでは社会資本の固定資本減耗について、われわれの社会資本ストック推計値によって1950年代から時系列的にその規模を見ておきたいと思います。2)

Depreciation of Infrastructure 社会資本としても、もちろんすでに固定資本減耗が計上されている空港や有料道路などを除きまして、一般政府が所有する社会資本としてものカバレッジをどうするか、あるいは災害復旧の取り扱いなどは難しい問題です。災害復旧費を除く基準によって、一般政府所有の社会資本として、農業土木、林道、漁港、道路、街路、橋梁、公園、緑地保全、下水道、下水道終末処理施設、治山、河川、砂防・地すべり対策、急傾斜地崩壊対策、海岸、土地造成の合計では、1960年853億円、1970年3846億円、1980年2.47兆円、1990年4.92兆円、1995年6.65兆円、2000年8.05兆円となります(名目値)。一国全体の固定資本減耗に占める一般政府所有の社会資本によるシェアを示したものが右図です。1960年代には、旺盛な民間資本の蓄積もあり社会資本のシェアは4%弱から4.5%で安定的な傾向にあります。高度経済成長の終焉に伴い、1970年代には6%程度まで急速に上昇し、1990年代後半には8%に近づくもう一段の上昇を見せています。

Depreciation of Infrastructure2 もう一枚のグラフは社会資本による固定資本減耗の対GDP比(名目)です(1960年から2000年まで)。対GDP比では1960年代の0.5%ほどから、2000年の1.6%まで大きく拡大していることが分かります。 2000年における社会資本(一般政府所有)の内訳では、一般道路(街路・橋梁を含む)が2.9兆円で、およそ3分の1強を占めています。下水道(終末処理施設を含む)では18.5%、農業土木では14.4%、河川10.0%と続いています。2000年において、(各公団による固定資本減耗がGDP統計において以前より計上されている)有料道路、港湾、空港の固定資本減耗を加算すると9.3兆円です。GDPの視点からみると、この10兆円近く(GDP比での2%)は先決されていると言うこともできます。 そして重要なことは、一国経済として、年間10兆円ほどの社会資本による固定資本減耗のコストを毎年負担しなければならないことです。もし社会的割引率がゼロに近いとしても、社会資本が1年間に提供しているサービス額(外部性)はその固定資本減耗を上回っているのでしょうか?個別の社会資本では必ずしもそうではないものが含まれているのかもしれません。 経済において直接的に内部化されていない費用、それは政府による一国経済の運営にとって注視すべき数字となります。国民経済計算における社会資本の固定資本減耗の計上とは、国際比較上の問題のでみではなく、日本の経済成長を考察する上で重要な意味を持っているのです。

1) 2004年現在、日本のSNAでまだ含まれていない自社開発ソフトウェアとソフトウェアパッケージの資本形成分を加えると、無形固定資産としてのソフトウェア全体の総固定資本形成によるGDPへのインパクトは、社会資本の固定資本減耗(政府消費支出)によるそれを少し上回ります。 ここでのソフトウェアはフロー量である投資のGDPへの影響であり、ストックとしてのソフトウェアとインフラストラクチャーを固定資本減耗において比較すれば、社会資本は耐用年数が長くても毎年より大きな費用負担を発生させています。

2)個別社会資本の耐用年数や償却分布など、ここでの測定値は公式統計とは異なることに注意してください。

野村浩二(慶應義塾大学産業研究所)



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