レキシントン−2004年大統領選が終わった日

November 3, 2004

先月、ハーバードに通ったベルモント在住時の大和田雅子さんのチューターをしていた年配のアメリカ人女性に話を聞く機会がありました。その思い出や皇太子妃としての心労に対するいたわりの言葉の後に、堰を切ったように出てきた話題は2週間後に迫った大統領選のことでした。彼女はこれまで共和党を恨んだことも、個人的に人を嫌ったこともないのだけれども、ブッシュ大統領だけは嫌いだと、この選挙では必ず勝たなくては、とおっしゃっていました。さぞかしその落胆は大きいに違いありません。

所得標準偏差
Maryland559121096
Alaska554121057
Minnesota54931961
New Hampshire53549760
Connecticut53325939
New Jersey53266836
Delaware508781103
Massachusetts50587971
Virginia49974831
Hawaii49775907
Colorado49617919
Utah48537924
California48113518
Wisconsin46351725
Nevada46289786
Illinois45906642
Michigan45335724
Rhode Island44311733
Washington44252829
Missouri43955828
Pennsylvania43577527
Nebraska43566757
Ohio43332512
Georgia43316721
Oregon42704601
Kansas42523793
New York42432419
Vermont41929644
Iowa41827744
Indiana41581575
Arizona41554886
Texas40659443
Wyoming40499767
South Dakota38755596
Idaho38613774
Florida38533465
South Carolina38460756
North Carolina38432597
Kentucky37893655
Maine37654634
Alabama36771744
North Dakota36717640
Tennessee36329666
Oklahoma35500481
New Mexico35251849
Montana33900692
Louisiana33312789
Mississippi32447808
Arkansas32423658
West Virginia30072479

11月2日の投票を受けて、翌3日にはジョージ・W・ブッシュ大統領のfour more yearsが決定的となり、2004年のとても長かった大統領選があっけなく終息を向かえた今日、ここマサチューセッツ州で知事を務めていたケリー候補者の敗北は大きな虚脱感を残しています。この落胆は、地元意識のようなものに基づくものではないでしょう。それは米国でも高度にeducatedされた彼らの意志は、米国全体の意志ではなかったこと、そしてその一国の意志を理解できないことに依存しているものと思われます。マサチューセッツの声は、米国の外にある欧州や日本(国家は別ですが)など、世界の声に近いのでしょう。米国はこれからもまだ単独主義を貫くことを選択するのか、強いアメリカとは何を志向しているのか、世界やマサチューセッツの発する声は米国中部・南部までは届くことはありませんでした。

アメリカの地図は、ケリー候補者を支持した東海岸・西海岸など、そしてブッシュ大統領の再選を望んだ中部・南部ときれいに分かれたことが印象的です。米国の都市が成り立つ基盤は日本とは異なります。道を一本隔てた隣の市にふらふら入ると、がらっと変わった雰囲気に驚きます。ボストンでは犯罪の多発する地域はサウスボストンのみです。米国に来たときに、なぜそういう地域を野放しにしているのか、という自然な疑問をアメリカ人の同僚に聞いたことがあります。どうもクリアではないその答えは、結局そんなところには行かないから関係ないだろ?というようなことです。ボストンとケンブリッジを結ぶレッドライン(地下鉄)の西の端は、Alewifeというケンブリッジ北西の駅です。隣の市Airlingtonも地下鉄が来ることを拒否しているようです。それが運んでくる、住環境を脅かすかもしれない人々を意識して・・。地域格差を許容することで、一方では犯罪多発地帯を、また数マイル離れただけの他方では緑に囲まれた安全で快適な住環境を提供しています。

米国では、ここマサチューセッツ州はあまりにも偏ったサンプルです。全米では州ごとにも大きな地域格差を抱えています。右は米国センサス局(U.S. Census Bureau)による州別家計所得とその標準偏差です1)。所得の多い順に上から下にソートしてあります。マサチューセッツ州は上から8番目、選挙戦では最後の焦点となりブッシュが勝利したオハイオ州は中ごろ23番目です。そして州名の青文字はケリー支持、赤文字はブッシュ支持です。地域的にも周辺を取り囲むようにケリー陣営が勝利していますが、所得という指標で色分けしても特徴が大きく出ているといえるでしょう。

ロナルド・コースは1937年の「企業の本質」という著名な論文において、企業という組織が存在する合理性を説明しています。現在では、Information Technologyという新しい技術進歩が市場での取引費用を低下させ、適正な企業の規模に影響を与えているのでしょう。また逆に地球温暖化に代表されるような自然環境制約によっては、自動車製造業のように大規模な研究開発費を投じるべく企業の規模をより拡大させることが合理的なのでしょう。国内では鬱積したさまざまな地域格差を抱える米国において、大統領選におけるこの大きな落胆も、国家の方向性に対する意識の分断も、効率性を重んじる代償としては限界に近づいているようにも感じられます。ケリーはブッシュ大統領への当選祝いの電話で「(選挙戦で)分裂した米国を協力して一つにし、分裂の傷を癒やさなければならない」と述べたようです。南北戦争の遠い記憶から、分裂にはたいへんに神経を尖らせるのでしょう(disunionの可能性などかなり緩やかに質問すると、ありえないと笑われますが・・)。国内でのコンプレックスが入り混じり、歪んだ大国意識による未熟にも見える意思決定は、現在ではそのまま世界に影響をもたらす。これがもっとも恐いことです。

1) 右表における所得は、各州における所得の中央値(median)の2000-2002年(3年間)における平均値。(50州のため、Washington, DCはここには含まれていないが、選挙としてはケリーが90%以上の票を集めて圧勝)


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