『資本の測定−日本経済の資本深化と生産性−』
第2章 資本ストック

第2章では、本書での固定資本マトリックスの概要と固定資本ストックマトリックスの測定を紹介する。 わが国は、数多くの一次統計から、産業連関表や国民経済計算などの加工統計に至るまで、世界でも有数の統計大国である。しかしその中で資本ストック測定は、国際比較としてみれば少なからず遅れをとっている印象は否めない。 第2章では内閣府「民間企業資本ストック」での推計方法と問題点の整理をおこなっている。それは資本ストック量を過大に評価し、そして1980年代以降さらにバイアスが大きくなっているだろうことを示している。

伝統的なストック概念に対して、ここでは粗資本ストック、生産的資本ストック(productive capital stock)、純資本ストックという3つのストック概念が設定され、その測定の具体的なプロセスを描写している。経齢的な劣化パターンに幾何分布を仮定したとき、経齢的効率性プロファイル(age-efficiency profile)は経齢的価格プロファイル(age-price profile)と同一になり、設備年齢の経過にともなう資本の効率性と価値の分布が一致する。資本の測定では、理論的に望ましい性質を持つこの幾何分布の仮定(best geometric approach:BGA)の採否がひとつの重要なポイントである。それが近似として有効であるかは、実証分析によってのみ示されよう。ここではわが国の賃貸住宅と中古自動車のデータからBox-Coxモデルやhyperbolic型によって償却分布の測定をおこなっている。そこでは幾何分布による近似はほぼ有効であることが確認される。推定された償却率と米国でのHulten-WykoffやBEAによる償却率との日米比較からは、住宅の償却率が日本では相対的に大きく(償却スピードが速く)、また逆に自動車の償却率では相対的に小さい(より耐用的である)ことが見出されている。

固定資産における生産的資本ストックの測定は、補章においてその測定の詳細を紹介している土地資産および在庫資産とともに、資本ストックマトリックスを形成している。G7諸国と比較しても、わが国の土地資産は資本ストック全体に占めるシェアがきわめて大きな最大の資産項目である。土地資産が生産活動に投入されるひとつの資本であることは明確であるが、わが国ではその測定例は多くはない。本書では、資本ストック、資本サービス価格、資本サービス量、そして全要素生産性において、一貫して土地資産と在庫資産を除いた固定資産ベースと、それを含めた全資産ベースの2つによって測定をおこない、それぞれにおいて土地資産を無視することによるバイアスを明示している。


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Measurement of Capital
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